不動産業者が斡旋する住宅診断(ホームインスペクション)で買主が騙される

住宅を売買するときに、ホームインスペクション(住宅診断)を利用する流れができたことは、本来ならば非常に良いことのはずです。しかし、今の不動産業界では、ホームインスペクション(住宅診断)の使い方を誤った方向へと利用してしまい、結局、買主がその煽りを受けてしまうシステムになってきました。

買主が、巧みな不動産業者のためのホームインスペクション(住宅診断)によって騙される事例が大量に増加中で、今後もしばらくは増えていきそうです。購入後に公開しないため、買主はここでホームインスペクションを取り巻く環境を学び、住宅購入で失敗しないように対策をとりましょう。

このコラムは以下の構成になっています。

  1. 不動産業者がホームインスペクション業者を斡旋することが増えた
  2. 斡旋されるホームインスペクションで買主が騙されている
  3. 買主は斡旋される業者を断り自分で探すべき

上の3点について、きちんと理由をあげて解説しているので、買主は売買契約を結ぶ前に読んでおきましょう。

1.不動産業者がホームインスペクション業者を斡旋することが増えた

最初に説明するのは、買主に対して不動産業者がホームインスペクション(住宅診断)業者を斡旋・紹介することが増えたという事実に関しすることです。購入したい物件を見つけて、買主から「住宅診断を入れたい」と申し出ると、不動産業者から「それなら、安い業者があるので紹介しますよ」と言われることが増えました。

これが、結果的に買主が騙され、誤解させられる道のりのスタートの合図です。

買主から希望していなくても、不動案業者から紹介や斡旋の提案を受けることも非常に多いです。しかし、そこには買主にとっては嬉しくない現実もあるので、以下で説明します。

1-1.不動産会社が提携する業者の斡旋・紹介

斡旋・紹介されるホームインスペクション業者は、その不動産業者が提携している業者であることが多いです。不動産業者向けに斡旋を求める営業をしているのですが、その提携関係は不動産業者が一方的に顧客を紹介する関係であるため、斡旋されるホームインスペクション業者にとっては不動産業者が最も大事なお客様になっています。

つまり、不動産業者の機嫌を損ねると仕事をもらえなくなるわけです。

不動産業者は家を売りたいわけですから、斡旋されたホームインスペクション業者は売れなくなる結果を出すと自分たちの仕事や生活に響く恐れがあるわけです。不動産業者とホームインスペクション業者の癒着は海外でも問題かしてきたのですが、日本ではこれを禁じる有効な対策を講じていないため、癒着天国となっています。

1-2.不動産会社の関連会社・子会社の斡旋・紹介

斡旋される業者は、不動産業者の提携先とは限りません。不動産会社が出資する会社であることも多く、大手不動産会社では当然のとうに出資先を紹介しています。どう見ても第三者とは言えないのですが、第三者だと説明しているケースも多いです。

家を売りたい会社が出資しているインスペクター業者が、誰のために現場で調査しているのか。調査結果は、その報告時の表現次第で、知識のない買主を大丈夫だと誤解させることは簡単ですから、十分に注意したいものです。

1-3.不動産業者が斡旋するのは売るための住宅診断(ホームインスペクション)

既に書いたように、不動産業者が斡旋しているホームインスペクション業者は、不動産業者の意向を無視しづらい立場です。不動産業者が斡旋しているのは、買主が本当の第三者を連れてきて、建物の不具合等をいろいろと指摘されてしまっては、購入中止になってしまうことを恐れているからです。

息のかかった業者を斡旋することは、不動産業者にとっては自分たちの利益を守るために重要になっています。買主が求めているのは、購入判断や購入後の補修・メンテナンスに役立つ住宅診断(ホームインスペクション)ですが、不動産業者が求めているのは売るために都合の良い住宅診断です。

売る側と買う側には、明確な利用目的の相違があることを理解しておかなければなりません。

買主が騙されるインスペクション

2.斡旋されるホームインスペクションで買主が騙されている

不動産業者に斡旋されるホームインスペクション(住宅診断)に買主が騙されると聞くと、強い印象を持つかもしれませんが、実は不動産業者が意図的に騙そうとまでは考えておらず、結果的に騙す(もしくは誤解させる)ことになっているケースも多いです。

買主が自分で探して依頼する業者よりも、不動産業者が安心できる業者を紹介する方がよいと考えている程度のことも多いです。

ちなみに、不動産業者がある程度コントロールできる業者を斡旋・紹介するのは、不動産業者にとっての安心感以外に、バックマージンが入るという理由のときもあります。

それでは、どのようにして買主が騙されるのか、または誤解させられるのか具体的に解説します。

2-1.不足する調査項目と後押しする国交省の基準

不動産業者に紹介される業者が行うホームインスペクションでは、調査項目が非常に少ないことが特徴的です。そして、調査項目が少ないことは国交省が出している既存住宅状況調査方法基準によって裏付けられています。

この基準では調査項目として挙げられている項目が少ないため、基準通りの調査をするだけならば、本来ならば買主のために調査すべき項目が除外されてしまうのです。つまり、買主にとって不足する調査項目なのです。

調査項目が少ないため、調査時間も短く、本来なら2~3時間かかる住宅規模でも1時間未満で調査を終えることも多いです。

調査項目が適正なものであれば、買主には役立つ価値あるものになりますが、売りたい不動産業者や売主にとっては不都合なものとなってしまいます。

このことに気づいて提携先などを斡旋している不動産業者は、そう多くないようです(執筆時点ではそうですが、今後気づく業者も増えるので加速するでしょう)。

2-2.存在するはずの不具合が報告されないシステム

調査項目に関係する不具合などがあっても、買主に報告されない建物の症状がいくつもあります。実際に存在している症状で、それを検査員が見つけているはずなのに報告されないのです。この事実を後から知れば、驚く人が多いですが、これが不動産業者の斡旋するホームインスペクションの実態です。

その仕組みは以下のとおりです。

前述の既存住宅状況調査方法基準に従って調査してから作成される報告書では、調査項目に該当する劣化事象があるか、ないかだけを報告する仕組みになっています。たとえば、一例として基礎の欠損について説明します。

「基礎の深さ20mm以上の欠損」という項目について、調査結果は「無し」か「有り」かのいずれかを選択するようになっています。該当する深さの欠損がなければ「無し」が選択されることになります。実際に20mm以上の深さの欠損がなければ、この調査結果は事実です。

しかし、現場には17mmの欠損があったとすればどうでしょうか?

基礎に深さ17mmもの欠損があるならば、普通なら補修すべき症状です。構造躯体に影響ある欠損が、家の基礎という大事な箇所にあるにも関わらず、これを報告しなくてよいことにされています。

ちなみに、深さ10mmでも本来ならば買主に報告して、補修の必要性を説明すべきですし、購入前に知らせておくべき大事な情報です。

これは一例ですが、報告されない問題は他にもいくらでもありますが、買主側の立場でホームインスペクション(住宅診断)を行うアネストのHPで、それらの具体的な事例を「売主・不動産会社のホームインスペクション(住宅診断)の注意点」にまとめているので参考にしてください。

残念ながら、こういった大事なことを堂々と告げないでよいことにされてしまっているのが、今の日本のホームインスペクション(住宅診断)の仕組みです。

ちなみに、基準で示しているのはあくまで最低限度のものですから、それ以上に細かく診断して報告することは可能ですから、執筆者の会社(アネストブレーントラスト)では買主目線で必要なことで知りえたことは全て報告しています。

ただ、不動産業者が斡旋する業者では最低基準でのみ調査・報告していることが一般化してしまっており、買主にとっては不足するものとなっているのです。

2-3.調査項目の不足と報告されない不具合で大丈夫だと誤認させられる

調査項目を少なくしていること、そして大事な症状であるにも関わらず報告されない不具合がありうることから、買主は不十分な調査結果を示されて、「この物件は買っても大丈夫だ」「安心できる家だ」などと誤解させられる結果になるわけです。

このような仕組みが意図的に作られたのかどうかわかりませんが、基準におかしな点がいくつもあるのは確かです。買主が騙されていると言っても決して過言ではないでしょう。中古住宅の流通量を増やしたい国とそれによって大きな恩恵を受けられる不動産業者にはメリットがある基準ですが、買主にはデメリットやリスクが大きすぎます。

3.買主は斡旋される業者を断り自分で探すべき

不動産業者が斡旋・紹介するホームインスペクション(住宅診断)を利用することが、買主にとってリスクやデメリットが大きいことを理解できたことでしょう。

本来のホームインスペクション(住宅診断)は、買主にとって優しいものでなければなりません。売るためのインスペクションではなく、買主に役立つインスペクションであるべきです。不動産業者が斡旋してきても、それを断り、自分たちで業者を探して依頼しなければなりません。

また、既に売主や不動産業者がホームインスペクション(住宅診断)を実施済みというケースも多いです。売るためのPR材料を用意しておくことは自由ですから構わないことですが、その調査結果は買主に役立たないものが多いですから、たとえ2重チェックになろうとも買主の方でも依頼した方がよいでしょう。

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