中古住宅を買う人が知っておくべき既存住宅インスペクション・ガイドライン

新築住宅や中古住宅を購入するとき、または自宅を点検したいときやリフォームするときなどに、専門家によるホームインスペクション(住宅診断)を利用する動きが全国的に普及してきました。このホームインスペクション(住宅診断)に関して、既存住宅インスペクション・ガイドラインというものがあることをご存知でしょうか。

ここでは、これから中古住宅を買う人が知っておきたい既存住宅インスペクション・ガイドラインについての基礎知識や要点を解説しています。

 

既存住宅インスペクション・ガイドラインの基礎知識

まずは、既存住宅インスペクション・ガイドラインの基礎的な知識について解説します。

 

既存住宅インスペクション・ガイドラインとは?

既存住宅インスペクション・ガイドラインとは、目視を中心とした基礎的な検査(インスペクション)における検査方法やサービス提供に際しての留意事項等について指針を示しているものであり、国土交通省が策定したものです。

既存住宅インスペクション・ガイドラインが対象としている建物は、その名の通り既存住宅、つまり中古住宅であり、中古住宅の売買時の利用を前提としています。

 

既存住宅インスペクション・ガイドラインの目的

このガイドラインが策定された目的は、インスペクション事業者が適切にその業務を行うことによって、既存住宅インスペクションに対する消費者からの信頼を得て、これをスムーズに普及させていくことです。そのため、ホームインスペクション(住宅診断)を行う事業者が確認しておくべきものです。

この記事は、中古住宅を購入する人向けのものですが、ガイドライン自体は事業者向けのものということです。ガイドラインは指針ですから義務ではありません(強制されるものではない)が、ガイドラインから大きくはずれたことをしている事業者は信頼してよいものか疑問を持った方がよいでしょう。

 

ガイドラインの対象となるインスペクションとは?

既存住宅(中古住宅)のインスペクションといってもいろいろなものがありますが、このガイドラインが対象としているものは、一次的なイホームインスペクション(住宅診断)に限られています。一時的なホームインスペクション(住宅診断)とは、目視等の非破壊調査であり、劣化事象の有無を把握することを目的としています。

一次的なインスペクション以外のものとしては、劣化事象のある範囲や不具合の原因を探る詳細な調査(二次的なインスペクション)やリフォームの前後に調査を行って住宅の性能を把握するもの(性能向上インスペクション)があります。

一次的なインスペクションは、二次的なインスペクションや性能向上インスペクションに比べて、浅い調査だというイメージになりますが、中古住宅を売買するときに現実的に実施しやすいインスペクションとも言えます。

ガイドラインでは、新築住宅を対象としておりませんし、また不具合などの原因調査も対象としていないということですね。

 

既存住宅インスペクション・ガイドラインが示す検査内容

ガイドラインが示す検査内容は気になるところですね。ただ、それを見ていく前に以下のことを理解しておきましょう。

既存住宅インスペクション・ガイドラインでは、最小限の内容を示そうとしているものです。どの事業者もこの最小限のことを共通して実施することで、適正化を図ろうとしています。あくまでも最小限のことであるため、それぞれのインスペクション事業者がガイドラインに示されたこと以上のサービスを提供することもあることを理解しておきましょう。

 

検査方法

検査方法は主に目視によるものです。目視で、建物の各部位(基礎・外壁・室内壁・床など)にあるひび割れ(クラック)・欠損・剥がれなどの劣化・不具合を把握していきます。

注意点としては、劣化などの症状の有無を確認しても、その症状が構造的な欠陥であるかどうか、また原因が何であるかといったことの判定まではガイドラインでは求めていないということです。また、住宅の性能(例えば、耐震性能や省エネルギー性能など)の判定や建築基準法等の関連法規に関する違反有無の判定、図面との照合も検査内容に含まれておりません。

 

検査対象

ガイドラインでは検査対象も示していますが、建物外部については現場で足場等を組まずに、歩行など通常の手段で移動できる範囲だとしています。足場を組まないことから、屋根はベランダや地上から目視確認する程度となり、細かなところまでは検査できませんね。

小屋裏や床下はインスペクションのなかでも重要な箇所だと言えますが、これらについては点検口から目視可能な範囲としていますから、点検口の周囲ぐらいしか確認はできません。但し、ホームインスペクション(住宅診断)を永く行っているアネストでは、床下も小屋裏も診断者が奥まで進入して検査するオプションを用意しています。

ガイドラインは最小限のものですから、このように依頼者のメリットとなるようなオプション等を用意していくことはあるのです。

 

検査項目

この既存住宅インスペクション・ガイドラインでは、検査項目についても言及しています。しかし、そこに明記された項目は大雑把なものであり、事実上、各事業者に委ねだれているといってよいものでしょう。インスペクションの検査項目として挙げられているのは、以下のものです(戸建てに関すること)。

・構造耐力上の安全性に関すること

  • 小屋組、柱、梁、床、土台、床組等の構造耐力上主要な部分の蟻害・腐朽・腐食・著しい欠損・接合不良など
  • 床、壁、柱における6/1000以上の傾き
  • 基礎における巾0.5mm以上のひび割れ、深さ20mm以上の欠損(RC造なら錆汁や鉄筋の露出)など

・雨漏り・水漏れに関すること

  • 屋根・外壁の仕上げ材における雨漏り被害にあう可能性が高い欠損等
  • 外壁や建具周りのシーリング材・防水層における雨漏り被害にあう可能性が高い欠損・破断
  • 建具・建具周りにおける雨漏り被害にあう可能性が高い隙間・破損等
  • 建物内部の壁・天井等における雨漏り・水漏れの痕(漏水痕)

・設備配管に関すること

  • 給水管の錆による赤水
  • 給水管・給湯管の漏水
  • 排水管のつまり、漏水
  • 換気ダクトの脱落、接続不良

以上の項目がガイドラインの対象となっているものですが、かなり限定的なものだという印象です。

たとえば、床が6/1000も傾いていれば、非常に大きな傾きなので誰でも意識して歩けば気づくレベルです。もう少し小さな傾き(例えば、5/1000)であっっても依頼者には報告した方がよいですし、傾き以外の症状(室内壁のひび割れなど)も細かくチェックしたうえで総合的な判断・見解を参考として依頼者に伝えてあげた方が親切ですし、必要な情報ですよね。

中古住宅購入時にホームインスペクション(住宅診断)を利用するならば、既存住宅インスペクション・ガイドラインで示している検査をしているというだけでは不十分であることを理解し、もっと細かなところまで、もっと多くの項目まで診てもらえるものかどうか確認しておきたいものです。

インスペクション事業者のHPや報告書のサンプルで検査項目を確認しておくようにしましょう。

 

既存住宅インスペクション・ガイドラインが示す検査人

ガイドラインでは、検査人についても示しています。現場で検査(インスペクション)を行う人のことです。この業務を行うために必要な建築知識や経験がありますが、これを個々に判断するのは困難です。ホームインスペクション(住宅診断)を依頼する側としては、ガイドラインで示していることを1つの参考にするとよいでしょう。

 

住宅の建築に関する資格

住宅を建築する過程に深く携わる資格を持ち、その業務を経験していることは、インスペクションをするうえで役立ちます。逆にこれがないと必要な基礎的な経験を得られていないということであり、インスペクションをするには不適当と言えるのではないでしょうか。

ガイドラインでは、建築士もしくは建築施工管理技士の2つをあげています。このいずれかの資格は必須であると考えた方がよいでしょう。ただ、建築施工管理技士では設計ができませんから、建物の仕組みをより深く理解しているという意味で建築士であることがより望ましいです。

 

望ましい検査人の経験

関連する経験としては、既存住宅の性能評価や瑕疵保険における現況検査、フラット35の適合証明業務、リフォーム工事の施工などが挙げられています。このなかでも、リフォーム関連の経験(施工・管理・設計など)は既存住宅(中古住宅)のインスペクションに活用できる部分は多いです。

性能評価や瑕疵保険における現況検査、フラット35の適合証明業務の経験は、それほど大きなものでもないです(確認する範囲が限定的で、実際のインスペクションではもっと細かなところまで求められることが多いため)。

もちろん、建築士としての業務経験(新築やリフォームの設計・工事監理)が大いに役立つことも知っておきましょう。

 

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