新築住宅にホームインスペクションは必要か?
これから新築住宅の売買契約を結ぼうとする前に、不動産業者にホームインスペクション(住宅診断)の利用を申し入れたとき、その業者から「新築ですからホームインスペクションは必要ないですよ」と言われたと相談されることが何度もあります。
- 新築だから大丈夫
- 新築だからホームインスペクションは必要ない
この不動産業者の説明は本当なのでしょうか?
先に結論を言えば、間違いです。
結論だけ聞いても納得できるものではありませんね。ここでは、不動産業者からの説明を聞いてホームインスペクションを依頼するかどうか迷っている人や、自分自身でも依頼すべきか判断つかない人にわかりやすく、ホームインスペクションの必要性をその理由とともに解説します。
- 不動産業者がホームインスペクションは不要だという理由
- 買主にとってホームインスペクションが必要な理由
- 不動産業者が不要だと言う本当の理由
今回のコラムは上の3点で構成しておりますが、できれば上から順に読んでみてください。
1.不動産業者がホームインスペクションは不要だという理由
新築住宅の買主(購入検討者)から不動産業者へホームインスペクション(住宅診断)の利用を伝えたとき、すぐに日程調整などに対応してくれる担当者が多いですが、なかには拒否反応を示したり、必要ないと説得してきたりすることがあります。
不動産業者が不要だと言うときの理由としては、以下の4点がよく使われています。
- ホームインスペクションを依頼する人が少ないから
- 住宅瑕疵保険の検査等があるから
- 工場生産して現場で組み立てるだけだから
- 昔は欠陥が多かったが今は少ないから
この4点の理由の詳細について以下で触れておきましょう。
1-1.ホームインスペクションを依頼する人が少ないから
「新築でホームインスペクションを利用する人なんてほとんどいませんよ」「普通は依頼しない」「これまでに新築では経験したことない」などと不動産業者が説明することが多いようです。他に依頼する人がいないのだから、あなたも頼まなくていいだろうと言いたいようです。
1-2.住宅瑕疵保険の検査等があるから
「新築するときに、売主や建築業者の方で第三者検査機関に委託して検査してもらっているから大丈夫だ」と説明を受けることもあります。これは、住宅瑕疵担保責任保険に伴う検査や住宅性能表示制度に基づく検査のことを言っているものです。
1-3.工場生産して現場で組み立てるだけだから
「最近の住宅は、工場で部材を生産して現場では簡単に組み立てるだけなので、欠陥住宅なんてできない」と説明されることもあります。工場生産されているのだから、人が作業して作るのと違ってミスなど起こらないと言いたいようです。
1-4.昔は欠陥が多かったが今は少ないから
「昔の住宅は欠陥住宅が多かったけど、今どきの住宅は大丈夫です。昔とは違いますから」と不動産業者から聞くこともあります。以前と違って建築業界の品質があがった、意識が変わったと言いたいのかもしれませんが現実はどうなのでしょうか。
上にあげた4つの理由は本当でしょうか?不動産業者の説明は真実なのでしょうか?
これについて次で解説します。
2.買主にとってホームインスペクションが必要な理由
前の「1.不動産業者がホームインスペクションは不要だという理由」はいずれも事実ではありません。不動産業者が思い違いしていることや事実ではないとわかっていて話していることばかりです。実態がどういうものであるか、以下の解説を読んでください。
2-1.ホームインスペクションを利用する人はかなり多い
「新築でホームインスペクションを利用する人なんてほとんどいませんよ」という不動産業者が言うことは多いですが、現実には多くの人が利用しており、その診断結果を購入判断に活用したり売主への補修要求に活用したりしています。
また、利用する人は間違いなく年々増えており、そのためにホームインスペクション業者も増えている状況です。2003年からホームインスペクション(住宅診断)を行っているアネストでも、新築住宅のご依頼件数は増え続けています。
利用する人はかなり多く、今後はさらに増えていくことでしょう。
2-2.住宅瑕疵保険等の検査は部分的に簡単な確認しかしていない
新築工事に際して、住宅瑕疵担保責任保険に伴う検査や住宅性能表示制度に基づく検査が入っていることは事実です(住宅によっては入っていないものもある)。特に、住宅瑕疵担保責任保険に伴う検査は非常に多くの住宅で利用されており、売主や建築業者が第三者検査機関に委託しています。
しかし、これらの住宅検査は、確認する項目・範囲が一部分に限られており、施工不良の有無を細かくチェックしているわけではありません。その検査にかける所要時間は平均で10~15分程度のみですが、広範囲に必要な検査をするには平均で1時間、工程などの条件によっては2時間程度かかるはずです。つまり、簡単な検査しか実施されていないわけです。10分程度で何ができると言うのでしょうか。
2-3.工場生産でも問題が多発している
新築住宅は、大手ハウスメーカーでは多くの部材を工場で加工し現場へ運んで組立てています。中小規模の建築業者でも大手ほどではなくとも、工場で加工した部材を多く用いています。不動産業者が工場生産して現場で組み立てているという説明自体は間違いとは言えません。
しかし、それは施工ミスが起こらない理由にはならないのです。
なぜならば、現場に運ばれた部材に欠損等の不具合があることもあれば、現場で組み立てる作業に問題があって施工ミスが生じることもあります。また、一度、施工した後の現場管理上の原因(養生ミス・他の工程の業者が既存部分を壊してしまう等)で問題が生じることもあります。
工場生産・加工が進んで建築の効率化が進んだ半面、現場の技術レベルの低下も進んでしまい、施工者の管理能力や意識低下も絡んでむしろ現場は危うくなっているのが現実です。
2-4.建築トラブルは増加し施工ミスも多い
不動産業者が何を根拠に、昔と違って今の住宅は大丈夫だというのは怪しいものですが、実際には建築トラブルは増えています。
公益財団法人である住宅リフォーム・紛争処理支援センターには、建築トラブルの相談が寄せられていますが、その相談数は増加傾向にありますし、住宅コンサルティングのアネストへ依頼される住宅の欠陥・不具合調査の件数も増え続けています。
つまり、新築住宅における施工ミス等のトラブルは今でもたくさんあるのが現実であって、不動産業者が「今の住宅はいろいろな検査もしているから大丈夫」だとする説明は事実ではないのです。
3.不動産業者が不要だと言う本当の理由
ここまでの内容から不動産業者の説明が事実ではないことが理解できたと思います。それでは、なぜ事実ではない説明をするのでしょうか?本来ならば、大事なお客様である買主にはできる限り事実を説明すべきところですよね。
根本原因は、売る側と買う側の利害の対立があるのですが、代表的な理由を2つご紹介します。
3-1.ホームインスペクションで施工不良が見つかったら購入中止になるから
不動産業者の立場としては、当然ながら売りたいわけです。それだけに、売るための障害となることは嫌う傾向にあります。
ホームインスペクションを行うことで、買主が購入しようとしている住宅に施工不良が見つかってしまったら、購入中止となるかもしれません。これは、買主にとっては契約する前に知っておきたい情報ですが、売る側としては知られたくない情報です。
不動産業界の営業マンの多くは歩合制で働いているため、契約をとれるかどうかは自分の生活に関わる重大な問題です。ホームインスペクションを行うことで給与に影響するとなれば、警戒する気持ちも想像できますね。
何か見つかるかもしれない、買ってもらえなくなるかもしれないという心配な気持ちがあるので、ホームインスペクションを避けたいと考えるのです。
3-2.ホームインスペクションしている間に他の業者が売ると困るから
ホームインスペクションをした結果、大きな瑕疵もなく問題ないと判断されたとしても、他の人が先に買ってしまう可能性があります。不動産仲介業者としては、別の業者が売ってしまった場合には仲介手数料をもらえなくなりますし、営業マンはもちろん歩合給がもらえません。
こうした事情から、他の業者や営業マンが売る前に自分が売りたいと考える傾向が強いです。ホームインスペクションを手配している間に、売れてしまうリスクを考えれば、「契約だけでも先にしてから利用してほしい」という営業マンも少なくありません。
買主の立場としては、契約してから大きな瑕疵・欠陥が見つかったら困りますから、やはり契約前に利用したいものです。
4.まとめ
不動産業者がホームインスペクションは不要だと言う理由は他にもありますが、上の2点が最も大きいでしょう。
不動産業者と買主では、住宅の売買に際して利害が対立する立場ですから、考えていることも目的も違います。買主は自分自身で慎重に判断して進めなければいけませんので、できれば契約する前にホームインスペクション(住宅診断)を利用するとよいでしょう。