傾きの測定

中古住宅を購入しようとしている方で、建物に関して迷われることの1つに、建物の傾きの問題があります。「間取り、立地などが気に入った中古物件ですが、建物が傾いているようなので心配だ」という方が契約前にその建物の住宅診断を利用して第三者の専門家に意見を求めることも少なくありません。

購入前の中古住宅に限らず、新築でも自ら居住している自宅であっても建物が傾いていれば心配されるのは同じでしょう。

建物の傾きの症状

「建物の傾き」とは言いましても、その症状は様々です。例えば、「2階の居室の一部だけが傾いていて他の居室では傾きを感じない」「1階も2階も傾いている気がする」「部屋によって傾きの方向が異なる気がする」などです。

これらは、傾きの症状ですが、その原因が何であるかをよく調査して的確に判断しなければなりません。症状だけを見て慌てても仕方がないですね。人で言えば、咳が出るとか熱があるということは症状です。原因は風邪であったりするわけです。住宅も同じで原因を調べる必要があるのですね。

原因を調べるためには、できるだけ多くの症状や情報を把握することが大事です。建物の傾き以外の症状がないかどうかを確認するわけです。たとえば、基礎コンクリートの外部や外壁にひび割れがないか、床下部分でも基礎のひび割れがないか、土台や大引きに問題がないか、束に問題がないか、根太に問題がないかなどとできる範囲で建物の状態をしっかり調査することです。

もちろん、建物のプランも把握する必要があり、そのためには現地で建物を見ることと図面で確認することが必要です。但し、中古住宅の場合は建物の設計図が残されていないこともあるので、あるものだけでも見ておきたいところです。新築時の地盤調査資料があれば、それも要チェックです。

このように1つ1つ情報・症状を把握していき、総合的に建物の傾きの原因が何であるか判断していくことが大事です。得られた情報が少ない場合には、専門家に相談しても原因を特定することが難しい場合もありますが、ある程度の推測はできることが多いでしょう。

建物の傾きの原因

ここで建物の傾きの原因の一例をあげてみます。

 ・傾きの床の下地材の劣化や施工不良
 ・根太の劣化や施工不良
 ・床下の束の浮き
 ・土台や大引きの著しい劣化
 ・建物のプラン上の問題(このなかでも事例は多数あり)
 ・新築時の施工の精度の悪さ(傾いた状態で施工していた)
 ・地盤沈下

これ以外にも建物が傾く可能性はあるわけですが、挙げただけでもいろいろあるものですね。このうち、下地材や根太や束の問題であれば対処方法も明確でコストも現実的に充分に対応可能なものですが、原因によってはコスト負担が重くて容易に対処できないこともあります。よって、中古住宅の購入前の住宅診断でわかったのであれば、購入を中止するという判断も必要です。

建物のプラン上の問題も少なくありません。これは大きな吹抜けがある場合や建物全体のバランスが悪い場合、さらには荷重がかかる位置への配慮が足りない場合など様々です。デザイン性を重視したあまりに、建物の傾きという症状となって表れることもあります。経験の浅い設計者による無理な設計に起因する問題ですね。

ちなみに、今の新築住宅では地盤調査をして必要に応じて地盤補強工事を行うため、地盤沈下はないと考えている業界人もおりますが、実際にはそうではありません。地盤補強工事を適切に行わないと地盤沈下の被害にあうこともあります。

建物の傾きの計測結果とその判断の参考

少し話が変わりますが、建物の傾きと言っても傾斜角度は様々です。どの程度の傾きであるかがよく問題視されますが、本当は傾きの程度だけで判断するのはよくありません。あくまで参考とするだけであって、重視しすぎないことも大切なのですが、1つの指標となるものをあげておきます。「住宅紛争処理機関による住宅紛争処理の参考となるべき技術基準」ですが、次のように定められています。

□床の傾斜(3メートル程度以上の距離で)
 ・3/1000未満の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低い」
 ・3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存する」
 ・6/1000以上の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高い」

□壁または柱(2メートル程度以上の距離で)
 ・3/1000未満の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低い」
 ・3/1000以上6/1000未満の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が一定程度存する」
 ・6/1000以上の勾配の傾斜
  「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が高い」

繰り返しになりますが、これはあくまで参考であってこれだけで判断してしまうと対応を誤ってしまう可能性もあるため、慎重にすべきでしょう。また、傾きの計測方法が悪いと計測結果も変わってしまうために要注意です。いずれにしても、建物の傾きがあるならば事が大きい可能性もあるので早めに専門家に住宅診断してもらうことを考えましょう。

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