擁壁のチェックポイントと注意点

新築でも中古物件でも住宅を購入するとき、または住宅を建築する目的で土地(宅地)を購入するときに、その物件に擁壁が関わっているとすれば、「この擁壁は大丈夫だろうか?」と心配するものです。擁壁の見た目が古くて劣化しているように見えるならば、なおさら心配されることでしょう。

しかし、擁壁の良し悪しは見た目の劣化具合だけの問題ではありません。古くても新しくても問題視される危険なものがあります。ここでは、擁壁のある住宅を購入するときに知っておきたいこと、注意すべきこと、チェックポイントについてまとめています。

擁壁とは?

擁壁はひな壇の土地でよく見かけられます。傾斜地を開発して造られた住宅街では、奥へ行く(山側へ行く)ほどに上っていきますが、その間にいくつもの擁壁を目にすることでしょう。山に近いエリアでなくとも、丘になっているところでも擁壁を見かけることは多いです。

たとえば、横浜や神戸では山が近くて傾斜地が多いですし、東京では丘や谷が多いため傾斜地が多いです。どこにでも擁壁はありうるものです。

擁壁とは、段差のある土地(新たに造成して段差を造るときも含む)で段差の上側の土地が低い方の土地の方向へ崩れようとする圧力を抑え、斜面の崩壊を防ぐための壁です(下図参照)。本来であれば、きちんと計算された安全な擁壁を設計し築造しなければなりません。

擁壁のイラスト

それでは、擁壁について知っておくべきことや注意点などを見ていきましょう。

擁壁のチェックポイント(1)擁壁の高さに注意

住宅用の土地の擁壁としては、まずその擁壁の高さに注意してください。高さが2m超の擁壁である場合、建築基準法によって建築確認申請が必要とされています。つまり、高さが2m超の擁壁については構造的な安全性を確認して擁壁を構築することになります。

但し、擁壁を構築した後に完了検査を受けて検査済証を発行してもらっているか確認が必要です。売主がその検査済証を持っているならば、それを閲覧し写しをもらっておきましょう。ただ、売主が検査済証を保管していないことは大変多いです。そのときには役所で完了検査を受けているか確認したほうがよいです。

高さ2m以下の擁壁の場合は、建築確認申請をする必要がないほど安全なのかというとそうでもありません。2m以下の擁壁が土の圧力によって崩れる事例はあります。建築確認申請が義務付けられていないため、構造的な安全性をあまり考慮せずに構築されてしまった擁壁は多く、むしろ危険なものが多いです。

国土交通省が公表している資料(我が家の擁壁チェックシート)には「擁壁の高さが1m以下の宅地は、ほぼ安全なものが多い」と記されています。1mを超えて2m以下の擁壁であればよく注意すべきでしょう。

  • 高さ2m超なら建築確認申請が必要。但し、検査済証を要確認。検査済証がなければ役所で要確認
  • 高さ2m以下は確認申請が不要で検査もないため、かえって危険な擁壁が多い
  • 高さ1m以下なら安全なものが多い

但し、分譲地が宅地造成工事の許可を受けた場合や開発行為による許可を受けた場合には、その中に含まれるため、宅地造成工事の許可証、開発行為の許可及び検査済証が建築確認申請の検査済証に替ります。

擁壁のチェックポイント(2)住宅地に適さない擁壁の種類

擁壁には様々な種類があります。そのなかで、そもそも住宅地として適さない擁壁もあるため、それに該当しないか確認しておきましょう。以下が住宅地に適さない擁壁の種類の一例です。

  • 空石積み擁壁(からいしづみようへき)
  • 増積み擁壁(ましづみようへき)
  • 2段擁壁
  • 張出し床版付擁壁(はりだししょうばんつきようへき)
空石積み擁壁
空石積み擁壁

上記のような擁壁ではなく、鉄筋コンクリート擁壁や重力式コンクリート擁壁などが住宅に適した擁壁です。ちなみに、住宅地で見られる新しい擁壁の多くは鉄筋コンクリートの擁壁です。

鉄筋コンクリート擁壁
鉄筋コンクリート擁壁

鉄筋コンクリート造擁壁、重力式擁壁及びプレストレストコンクリート造(PC造擁壁)は、その断面・鉄筋等に関して構造計算により安全を確かめる設計を行います。設計において荷重を検討しますが、擁壁に近接して建物を配置する場合には土圧に建物重量も加算する必要があります。従いまして2.0m以下の擁壁の場合は注意しなくてはいけません。

練り積擁壁は地質資料を基に傾斜角度、基礎の根入れ深さ間知ブロックとコンクリートの厚さなどを検討しますので、専門的な知識がないと設計できません。練り積擁壁は間知ブロックとコンクリートの重量で土を抑える構造ですから、通常は土圧を負担する擁壁であり建物の重量を負担しません。

コンクリートブロック積擁壁で良く見かけるものは、厚さ100mmから120mm程度のブロック積です。通常は鉄筋コンクリート造の基礎が無く、鉄筋が挿入されているとしても土圧を負担できるものではありません。擁壁としての強度が期待できる工法は型枠コンクリートブロック積です。

これらの擁壁であっても、以降のチェックポイントについて確認して購入の参考にしてください。

擁壁のチェックポイント(3)水抜き穴と排水溝

擁壁には地中の水を排水するために水抜き穴が必要です。これが無いと雨水や湧水などの水により擁壁の劣化を早めてしまう可能性や水圧が擁壁にかかってしまう可能性、また地中の水分量が増えて地盤が軟弱になってしまう可能性があります。この対策は大事なものです。

そこで擁壁を見るときには水抜き穴の確認が重要です。

擁壁の水抜き穴

水抜き穴がない擁壁は非常に危険ですが、水抜き穴があってもその条件・状況次第では十分に機能しないこともあります。具体的には、3m2に1箇所、内径75mm以上の水抜き穴があることを確認してください。また、水抜き穴だけではなく、擁壁の上側に排水溝があって排水計画を考えたものであれば、より安心です。

このときにあわせて、水抜き穴が土などで詰まって排水できていないとか擁壁上の排水溝が詰まっていないかも確認してください。強い雨の後に水抜き穴を見て水が流れていなかったり、湿っていたりしなければ上手く機能していない可能性が考えられます。

擁壁上の排水溝については、溝に大きなひび割れや目地の開きがあったり、排水溝周囲の地面に大きなひび割れがあったり、さらには排水溝がずれてしまっていたりする危険な兆候の可能性があります。

擁壁のチェックポイント(4)擁壁のクラック(ひび割れ)

擁壁に問題ある症状が現れていないか確認することも重要です。大きなひび割れ(クラック)があれば、危険な兆候である可能性が考えられます。また、擁壁にずれが生じていたり、上から見たときに段差が生じていたりしてもリスクがあります。注意深く確認してください。

また、擁壁がふくらんでいないかも確認してください。擁壁に近寄って確認し、丸くふくらんでいるようであれば注意が必要です。

ホームインスペクションのアネスト

ホームインスペクション
第三者の一級建築士が、住宅購入・新築時などに建物の施工ミスや劣化具合などを調査する。新築(建築途中および完成物件)・中古住宅に対応。安心してマイホームを購入できる。